ワーグナー
トリスタンとイゾルデ
Richard Wagner
Tristan Und Isolde
カール・ベーム(指揮)
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
ワーグナーにはまったら、逃れられません。麻薬のような陶酔の世界。音楽の悦楽はワーグナーに極まると言って良いでしょう。
ワーグナーは堂々たるオペラの傑作を生み出すとともに、極めて前衛的な手法により新しい音楽への扉を開いていきました。転調につぐ転調。不透明な調性の果てに、大いなる浮遊感を作りだして行く。シェーンベルクらの十二音階に通ずる和声の革命は、ドビュッシーを含め多くの作曲家に影響を及ぼしました。
「トリスタンとイゾルデ」は、その「無調」への試みとしては最右翼にある作品です。前奏曲から尋常ではありません。ストリングス・セクションがゆっくりと、転調しながら延々と浮遊していく。大いなる情感をたたえながら、少しずつ少しずつ・・・。クライマックスを極めた後も、はっきりした終わりのないまま、第一幕に溶け込んで行く。非常に前衛的な音響空間で、現代の音楽に通ずる先進性がそこにあります。
さて、カール・ベーム。「トリスタン」の名演数あれど、私はベーム指揮の本作が決定盤だと固く信じています。とにかく、老マエストロのかもし出す「情念」がすごい。実際、このオペラはトリスタンとイゾルデのふたりの悲恋を果てしなく(しつこく!)追いかけて行くもので、まさに情念の塊。それを体現したのがベームとバイロイト祝祭管弦楽団。ときは1966年、場所はワーグナーによる、ワーグナーだけのための聖なる歌劇場「バイロイト」です。
前奏曲が徐々に高まっていき、フル・オーケストラがフォルテッシモで振り下ろす。その直前の緊張感。弦のたわみ。ひそめられる団員の呼吸。最後までなおざりにしないリリース。これをエクスタシーと呼ばずして何と言う。稀代の名演と言えましょう。
ワーグナー指揮者の大御所フルトヴェングラーは、「偉大な芸術作品や偉大な芸術家にとっては、官能と精神の間にいかなる隔たりもなく、ありえず、またあってはならない」と言い切りました。これは正しくワーグナーを指しているのです。(「音と言葉」)
ワーグナーというと、そのあまりの官能性と、ナチスにつながる歴史性から「敬して遠ざける」感じを持つ向きもあります。でもそんなこと忘れて、ただ身を任せてしまえばいいんです。
もっとも、ワーグナー・オペラはどれもCD3〜4枚組み。「ニーベルングの指環」なんてトホホの15枚組みだったりします。この物量にまず圧倒されます。
そこで、お試しにベストな一枚。カラヤン指揮の「オペラ序曲集」をお勧めします。 74年盤でなく、84年盤ですよ!「タンホイザー」など、主要作品の序曲のみ集めたもので、カラヤンの情熱的な指揮にきっと「ゾクゾク」っと来ます。中でも「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。これは、人類が生み出した最高の音楽でしょう。どんなに現代のロック・バンドが束になってかかっても、ワーグナーには勝てません!
オペラ序曲集: カラヤン
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