坂本龍一/音楽図鑑
Ryuichi Sakamoto
世界のサカモトの残してきた足跡はまさに「ワールド・クラス」です。それだけに、最近のスタンスには疑問があるんです。
84年の「音楽図鑑」において、坂本龍一の音楽性は満開と言ってよいでしょう。
YMO散開のあと、本格的に取り組んだソロ・アルバム。2年近くの制作期間をかけ、練りに練って完成しました。洗練、繊細、クラシカル、ポップ、リズミック、華麗、ユーモア、やさしさ。シンセサイザー、ピアノ、ノイズ。坂本龍一の音楽の魅力の全てが、まさに「図鑑」のようにバラエティ豊かにおさめられています。
以降、85年「エスペラント」、86年「未来派野郎」、88年「NEO GEO」と充実した作品を連発。88年には「ラスト・エンペラー」でアカデミー賞。アニメ・サントラ「オネアミスの翼」もありました。
89年、Virginと契約。いよいよ本格的に世界進出。満を持して「ビューティ」発表。
そのへんからです。なんとなく「あれっ?」って思い始めたのは。
ひとことで言うと、なんだか借りモノの着物着ているような。ハウスにしろクラブ・ミュージックにしろ、ラップにしろ、世の中で流行っているグルーブ、ビート、リズムをスタイル丸ごと借りてきたような。上に乗っかっている音楽は坂本なんですけど、どうも「自分の音楽を創造している」という感動に欠けるような。。
94年「スウィート・リヴェンジ」。95年「スムーチー」あたりで多少違いが感じられましたが、「Energy Flow」で大ヒットを飛ばしたあたりではシラケました。「手クセで適当に書いた曲じゃないか」。「LIFE」なんてどこがいいのかさっぱり分かりません。
さて、そういうことで9年ぶりのオリジナル・ポップ・アルバムという「Chasm」。
聴きました。ある程度予想はしていたんですが、予想を上回る??感に、ちょっと沈んでいます。
彼の「非戦」の思想に難クセつけるつもりはありません。9/11は人類が直面する矛盾と悲劇を白日の下にさらしました。
ただ、わたしが問題にしているのはあくまで「音楽」です。言葉であまりにも明確なメッセージが打ち出されると、聞き手のイマジネーションは限定されます。しかもWorld
Citizen(世界市民)、Only love can conquer hate(愛のみが憎しみに打ち克つ)、War
& Peace、Is war as old as gravity?(戦争は重力と同じぐらい昔からあるの)といったメッセージは、はっきり言ってあまりにもナイーブ(日本では「繊細」という意味に誤訳されてますが、むしろ「甘ちゃん」ってことですよね)。これが坂本の言う「非戦」のあり方でしょうか?
しかも音楽的には、今までのリサイクル的だったり、意図不明なノイズ・コラージュなどが多く、いまいちピンときません。
功なり名を遂げると、急に社会運動を始めるアーティストがいます。スティングとかピーター・ガブリエルとか。たいがい音楽的にはピークを過ぎたあたりから、それをカバーするかのように政治的発言が増えていきます。「環境問題」だったり「人権問題」だったり。「もっといい音楽出せよ」と言いたい時もあります。
坂本龍一が同じだとは言いませんが、きっとミュージシャンとしてはIQが高すぎて、社会情勢、哲学・思想など幅広い分野に関心が行ってしまうんでしょう。
でも、「音楽図鑑」なんて、思想性のかけらもないタイトルのアルバムが一番魅力的だったんですから。
なんとかして下さい、教授!
さて、坂本龍一は、実はアレンジャーとしてもっとも魅力的だと思っていますので、矢野顕子と大貫妙子の2作品を「おすすめ」します。シンセを駆使して、あくまでポップに、ヨーロピアンに、室内楽的にまとめる技は、どの曲も絶品でした。
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<アルバム・データ>
発表年:1984年
レーベル:MIDI
曲目: 1.チベタン・ダンス
2.エチュード
3.パラダイス・ロスト
4.セルフ・ポートレイト
5.旅の極北
6.M.A.Y.イン・ザ・バックヤード
7.羽の林で 8.森の人
9.ア・トリビュート・トゥ・N.J.P.
10.レプリカ
11.マ・メール・ロワ
12.きみについて
13.チベタン・ダンス

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